19 Shaw-
翌日、7:30起床。
うーむ、さすが高級ベッド。
クッションが硬いのと、掛け布団がしっかり固定されていたせいで、背中が痛い。
貧乏人には向いてないらしいな。
とりあえず着替えてレストラン。
さすがはマリオットのブレックファースト、
気品さが漂い過ぎている。
「ほらほらお父さん、ココ空いてるよ!」
「いや~このヨーグルト、ホンマに美味しいわ。パックに入れて持って帰ろ」的な、
下賤な空気など微塵も感じられない。
素敵だ。
こんなモーニングなら、ホテルで食べようという気になろうというものだ。
我輩は菓子パンとブルーベリーヨーグルトが大変気に入り、ムシャムシャといただいたのであった。
さて、荷物をまとめ、チェックアウト。
ドライバーは既に待っていた。
どうやら彼がガイド兼ドライバーを務めるらしい。
見た目はインディペンデンスデイの科学者をごつくしたようなナイスガイである。
9:00、定刻に出発。
「よく寝れたかい。君が9:00出発にしたから、1時間半しか寝てないよ」
偽「ソーリーソーリー(元はといえば君の提案なんだけどね)」
「いやいや良いんだ。
ふむ・・・。どうせなら行きたいところだが、
ペトラはヨルダンでのハイライトなだけに、十分な時間を使いたいところ。
「どうする?ねぇどうするの?」
うーむ・・・。
偽「明日行けるなら明日両方行く。今日はペトラオンリー」
「方向が違うんだ」
偽「じゃあリトルペトラだけで。あぁ、我輩は写真を撮るのが趣味でね。
車は市街地からハイウェイへ。
当たりは一面の砂漠。
ペルーで見たような景色だ。
そして、沈黙が続く車内。
我輩は常日頃から、特に話す必要がなければ無口なので問題はないのだが、
果たしてこのドライバーはこの空気に耐えるかしら。
しーん・・・。
カチャッ シャキューン カチャカチャ。
しーん・・・。
しーん・・・。
カチャッ シャキューンシャキューン カチャカチャ。
しーん・・・。
「ちょっと朝メシを食っても良いか?」
偽「オッケー」
土産物屋で10分ほどのコーヒーブレーク。
買い物をしようか迷ったが、荷物が増えるのが嫌だったのでパス。
「さぁ行こうか」
ガチャッバタム。
「君は静かだな」
やはり耐えかねたか。(苦笑)
「よし、いくつか質問しよう。君は結婚してるのか?」
またその話題か。
偽「してないしノーガールフレンズだ」
「おーそうなのか。オレも離婚してノーガールフレンズだ」
む、新しい展開だな。
そこから話は適齢期へ。
なんでも彼は23の時に結婚。
嫁さんは15歳だったそうな。
しかし15歳というのは、決して早すぎるわけではないらしい。
偽「どこで知り合ったの?」
「まぁアンマンでね。アレンジドマリーなんだ。知ってるか?」
偽「う~ん・・・親が決めるの?」
「そうだ。愛なんて無いんだ。
うーむ・・・返答に困る話だな。
多くのイスラム教国では、女性は9歳から結婚することが許されている。
ゆえに、問題が少なくないことも何かで読んだことがある。
しかしこれは宗教の問題だ。
我々日本人のように、チャペルで神父とともに結婚式を挙げ、
寺で坊主とともに葬式を挙げることに
大した疑問を持たない無宗教な人種には、理解しがたいことが、
世界には沢山ある。
それに、我輩はアレンジドマリーについて詳しく知らないので、何とも言えん。
いきなりお前の嫁はこの人だ、と親が連れてくるのか?
若い頃アメリカで働いたりして、結構自由にしていたようだが、
そんな彼がその事実を受け入れた時はどんな気持ちだったんだろうな。
彼には3人の子供がいて、親権は彼が持っている。
あと3人欲しいそうだ。
子育てのためならいくらでも働くぜ!とのこと。
なるほどねぇ・・・。
車はどんどんハイウェイを走っていくが、道端にはかなり沢山の警官が立っている。
どう見てもネズミ捕りで、その数たるや凄まじい。
我輩は○賀県の高速道路を走るたび、
ここの警察、人が余ってんじゃねぇか?
と、いつも疑問に思っていたのだが、
ヨルダンの高速道路の警官の数はそれを確実に上回る。
聞くと、スピード違反だけでなく、ケータイ(は日本と同じ)、
タバコを吸っていても捕まるのだそうだ。
厳しいもんやねぇ。
「偽スナフキンは音楽は好きか?ならかけるぞ」
~♪
偽「ヨルダンで一番有名な歌手は誰?」
「ヨルダンにはそんなヤツいない。ヨルダン人の歌は聞いてて疲れるからな。
偽「なるほど」
「ちなみにこれは音楽じゃないぞ。聖なるコーラン(クルーアン・・・イスラム教の聖典)だ。
そうか・・・。
きれいな女性の声だが、読経のように聞こえるのはそれでか。
この後、翌日アンマンに送り届けてもらうまで、
我輩はずっとコーランを聞き続けることになった。
・・・音楽ちゃうやん。
ただ、読経とは違って何となく耳障りが良かった。
と、ようやく我輩もヘタクソな英語ながら会話が続くようになってきた。
「よし、偽スナフキンは写真が好きだから、十字軍の城に寄ってあげよう。これは贈り物だ」
おぉ、それはありがたい。
ずいーっと砂漠の中を走っていくと、小高い丘の上に、ショーバック城が姿を現した。
ヨーロッパのツーリストには、非常に人気があるらしい。
城には8つ?の隠し通路があって、周辺の崖には通路らしき穴がいくつも開いていた。
そして、あとの説明は忘れた。
ちなみに毒蛇がいるらしいので、行く人は気を付けて。
さてさて、いよいよペトラに近づいた。
まずはホテルに荷物を預ける。
今夜のホテルもマリオット。
無駄に豪華そうだ。
部屋は眺めの良い部屋を押さえてくれたらしい。
そしてすぐにペトラ・・・の前に。
偽「ペトラバイナイトというのがあるらしいね。行きたいんだけど」
と言ったら、チケットを買ってきてくれた。
ペトラバイナイトってのは、夜、ペトラ内を歩いたりするイベント。
「じゃあオレは寝るから、観光が終わったら電話しなさい。
良い人だな、このドライバー。
そして我輩は、ペトラの観光案内所でペトラガイドに引き渡された。
名はマハムート。
この旅で知ったが、マハムートって名前の多いこと。
人だかりでマハムートッ!って叫んだら、多くの人が振り返ることだろう。
色々説明を聞きながら歩いていく。
聞いている間は理解しているが、しばらくするとスッカリ忘れてしまう。
いつものことながら、英語の聞き取りは疲れるのである。
ペトラは、昔キャラバンが通った道で、地元の人が隠していたのを、
スイス人の探検家がコッソリ発見したんだそうだ。
宝があると思われたペトラだったが、ただの墓だったとのこと。
最初は、両側に墓を見ながら
馬にも乗れるといわれたが、歩きたい気分だ。
しばらくするとシクという、細い谷間に入る。
この谷の先に、有名な遺跡が姿を現すことを、我輩は知っている。
もし我輩がガイドなら、観光客には見せないように連れていって、バッと見せて驚かせるんだがな。
まぁ仕事で毎日やってるような連中に、それを期待するのは酷だな。
「もっとオレの方に寄って歩くんだ。そして注意深く足元を見ているんだ。
偽「わを」
なんて期待通りなリアクションをする我輩。
この変なところで素直すぎる性格、直したい。(独り爆笑)
これがペトラ遺跡の中でも世界的に有名なトラジェリー(宝物館)。
インディジョーンズに出てたとか。
我輩はあのシリーズ観てないから知らないが。
宝物殿というのは、屋根にある壷に宝があると思われていたからで、
谷の砂岩を掘って作った墓である。
墓だけあって、中は至ってシンプル。
四角い穴があるだけだ。
しばらく写真を撮り、さらに奥へと進んでいく。
左手にスタジアム(痛恨の撮り忘れ)、右手に住居を見ながら進んでいくと、 王家の墓が見渡せる、広い通りに出る。
トラジェリーも良いのだけど、この墓が見渡せる通りが一番良かった。
なんというか、スケールのでかさを感じたのであった。
さらにその奥には神殿跡があり、ここでガイドは終了。
少しだけチップを渡して、我輩は割り当てられたレストランでランチ。
ビュッフェで、別に美味くない。
さてさて、ここで先日購入した超広角レンズに交換。
ペトラ遺跡では、あまり「引けない」場所で広く写さなきゃいけないかもと思い、購入したわけだが、
実はさっきの写真のとおり、思っていたよりスペースがあって、ちゃんと写っている。
ただ、せっかく持ってきたのだからということで、無理矢理交換することにしたのである。
屋外でのレンズ交換は初めてのこと。
神経質な我輩は、埃が入らないよう、最新の注意を払って交換したのだった。
手ぶれ補正の無いレンズだからな。
暗くなるまでが勝負だ。
まずは、さらに奥にあるというモナストリーという遺跡を目指してみる。
トラジェリーによく似た、大型の墓らしいのだが・・・。
片道1時間半か・・・厳しいな・・・。
と、思っていたら、ロバ引きが寄ってきた。
そういえば地球の歩き方には、ロバなら速いと書いてあったな。
片道25ドルと吹っかけてきたのを、往復20ドルまで値切り、乗っていくことにする。
うーむ、ハエがうっとおしい。
我輩がロバに乗り、ロバ引きがロバを叱咤激励しながら山道を上っていくのだが・・・
ロバ引きが歩いていることから分かる通り、
全然速くない。
そして結構な急坂なので、姿勢維持が大変。
こりゃ失敗だな。
そしてロバ引きがロバの尻を木の切れ端でシバキ上げるのだが、
振動が我輩のケツに響いてきて、非常に可愛そうな気になってしまう。
それどころか、ロバ引きのオッサンは、しばらく進んだところで、
大きな石・・・いや、岩を拾い上げた。
オイ、お前まさか・・・。
「キッキッキッキッキッ ハーロワンッ!」
ゴッツッ ゴンッ ドゴッ!!
ドンキーを鈍器で殴る振動がリアルに伝わってくる。
これは耐えられない。
坂を上り切った広場で一時休憩となり、そこで我輩は20ドルを払って帰るように言った。
我輩には、あれ以上ロバがシバかれるのは、ちょっと耐えられなかったよ。
モナストリーまではまだ1時間かかるということだったので、断念。
写真を撮って、折り返すことにした。
帰りながら、超広角レンズでの本格的な初撮影。(練習する時間がなかったんだよ!)
確かに広く写るな。
こんな感じだ。
余計なものがフレームインしないように注意せねばならん。
何だか被写体が遠くにいってしまうので、遠景撮影には不向きか?
まぁ明日以降もタイミングを見て装着してみよう。
ふらふらと写真を撮りまくったせいで、閉場ちょい前の18:00に外に出た。
ドライバーに電話して迎えに来てもらう。
すると、何だか知らんが、
何者かが車にダイブしてきたので、病院に連れていったり大変で、
これからまたどこやらへ行かねばならないから、ペトラバイナイトはタクシーで行ってくれとのこと。
・・・。
白々しい。
まぁいい。
「ペトラまでは、どんなに高くても5ディナールだから」
そう言ってドライバーは去っていった。
無駄に豪華な部屋で少しだけ休憩し、メシを食ってからペトラバイナイトへ出掛ける。
コンシェルジュにタクシーを呼んでもらったら、往復20ディナールだという。
片道5ディナールじゃないのか?
しかし20だといってきかないので、やむなくそれでのむことにした。
チケットを部屋に忘れたりしながらも、ペトラを再び訪問。
ペトラバイナイトは、毎週月・水・木に、ペトラの夜間見学ができるというもの。
あまりのジャストタイミングに、これは行っておこうと思ったのだ。
久々に三脚を持っての出陣である。
勝手に歩き回るのではなく、ガイドが先頭に立って歩いていくようだ。
「探せないから、旦那や嫁など落とし物をしないように」
フ、ウィットに飛んだメリケンジョークじゃないか。
・・・。
あれ。
電子水準器落とした!
実戦投入初日やでオイ~ッ!!
ガックリと肩を落として、こんな道を歩いていく。
トラジェリー前には御座が敷かれ、そこに座って、ベドウィン(遊牧民)の音楽を聴き、
最後にわずかなフリータイムがあって終わり。
気合いを入れて写真を撮ったが、ファインダー越しには真っ暗。
ピントを合わせることなんて出来やしなかった。
まぁ何とか水平がとれたっぽいだけでもマシか。
電子水準器を落としたのは最強に痛かったペトラバイナイトだった。
さて、駐車場に戻ると、先ほどのタクシーと、
なぜだかタクシードライバーのマネージャー(以下MG)が待っていた。
MG「やー、遅かったね。見てごらんもう22:50だ。22:00だと言っていたのに」
なるほど・・・ゴネに来たというわけか。
こういうのは無視するに限る。
MG「明日はどこへ行くんだい?マリオットにはいくら払って泊まっているの?
チ。
うるせーな。
マリオットに連れていかずに
コイツの事務所に連れていくんじゃなかろうなと疑ったが、それはなかった。
さぁマリオットだ。
交渉の余地など与えないのが吉。
偽「オイ、20ディナールだろ(これでも高すぎるんだぞ貴様)?ホレ」
MG「おーい、君は遅くなったじゃないか。チケット取りに帰ったりしたんだろ?」
偽「お前(ドライバー)。
ガチャッバタム。
アディオスクソマネージャー。
一瞥をくれて部屋に戻り、さっさとお休みさせていただいた。
Zzz・・・
(黙って座ってたタクシードライバーは、後でアホバカボケッて怒られたんだろうな。知ったこっちゃないが) |